仙台高等裁判所秋田支部 昭和26年(ナ)11号 判決
原告 加賀谷新之助
被告 秋田県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、請求の趣旨として、『被告が昭和二十六年九月二十六日訴外鎌田勇吉の訴願について為した「同年四月二十三日執行の南秋田郡北浦町議会議員の一般選挙に於ける当選の効力に関する異議申立に対し同年五月四日北浦町選挙管理委員会の為した決定を取消し、右選挙に於ける当選人加賀谷新之助の当選を無効とする。」との裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。』との判決を求め、
その請求の原困として、
一、原告は前記選挙において最下位且つ首位落選者鎌田勇吉と一票の差で当選した。
二、これに対し右鎌田勇吉は同年四月二十八日同町選挙会が無効と決定した投票中に同人に対する有効投票一票存する事実を指摘しその結果として同人と原告との各得票数は同数となるから原告の当選は無効であるとの理由で同町選挙管理委員会に異議申立を為したところ同委員会は同年五月四日これを理由なしとして却下した。
三、そこで右鎌田勇吉は同年五月二十一日更に被告に対し訴願を提起し同町選挙管理委員会が無効と決定した「カマユー」なる投票は鎌田勇吉に投ぜられた有効投票であるから同人の得票数は原告のそれとは同数となり原告の当選は無効となるとの理由で同町選挙管理委員会の前記決定の取消を求めたところ被告は同年九月二十六日同町選挙会並びに同町選挙管理委員会が有効と認めた原告の得票中に型紙を使用したと認められ従つて無効とされねばならぬ投票が一票存する結果右鎌田勇吉と原告との各得票が同数となり選挙会において選挙長が両名の当落をくじで定めねばならぬ場合に該当するから原告の無効であるとの理由で請求の趣旨掲記の如き裁決を為した。
四、しかし被告が型紙を使用して書かれたと認めた投票は型紙を使用せず自由に書かれたものである。
五、のみならず、鎌田勇吉の訴願の理由は前記のとおりであるから被告はこれに対する裁決を下すに当り「カマユー」なる投票の有効無効、有効であるとすれば何人に対する投票であるかの点のみを審査すれば足るものであつて進んでその他の投票につき審査を為し訴願人の主張と異る理由で裁決を下すが如きは被告の権限外の事に属し、かかる権限を踰越して為された裁決は無効といわねばならぬ。
六、仮りに被告が訴願人の主張する投票以外の投票につき審査し訴願人の主張と異る理由により裁決を下し得るものであるならばその審査は選挙区全地域の投票全部に及ぼすべきもので本件の如くその一部の審査による偶然の発見に基き下された裁決は無効であらねばならぬ。
と陳述した。(証拠省略)
被告指定代理人は原告の請求を棄却するとの裁決を求め、答弁として、原告主張事実中一、二、三の点はいずれもこれを争はないがその余はすべてこれを否認すると述べ、鑑定人石田勝郎の鑑定の結果を援用した。
三、理 由
原告が昭和二十六年四月二十三日執行の南秋田郡北浦町議会議員の一般選挙に於て最下位且つ首位落選者鎌田勇吉と一票の差を以つて当選したこと、原告の右当選の効力につき前記鎌田勇吉が同年四月二十八日原告主張の理由で同町選挙管理委員会に異議申立を為したところ同年五月四日同委員会はこれを理由なしとして却下したこと右決定に対し前記鎌田勇吉が同年五月二十一日原告主張の理由で被告に対し訴願を提起したところ被告は同年九月二十六日原告主張の理由で請求の趣旨掲記の如き裁決を為したことは当事者間に争がない。而して検証並びに鑑定人石田勝郎の鑑定の各結果によれば右選挙の際の原告の有効得票とされた投票中に「カガヤ」と記載されているが、右三字の内「ヤ」は筆者により自由に書かれたと認められるけれども「カ」及び「ガ」の二字はいずれも型紙を使用して書かれたと認められる一票の存することが明白である。凡そ投票は代理投票の場合を除き選挙人自ら他人の手を借りることは勿論筆を型紙に託する等のこともなく自己の自由な運筆により記載することを要することは公職選挙法第四十六条の明規するところであつてこれに反するものは当然無効と解すべく、三字の内同法条の要件を具備するものが一字存してもその一字が「ヤ」であるか「キ」であるか必ずしも明白であるといい難いこと前記鑑定の結果に徴し明かであり且つその一字だけで何人に投ずる意思を以つて記載されたものかを明にすることができない本件においてはかかる一字の存する事実により右と異る論結を導き出すことはできない。原告は無効投票の存在することは異議訴願のいずれも理由にもされていないのに単に一部の投票のみを審査しただけで選挙区域の全地域の投票全部につき審査するところなく偶然に発見した一票に基き為された被告の本件訴願裁決は無効であると主張するのであるが選挙管理委員会は訴願につき審査を為し裁決を下すに当つては異議申立人の異議理由、訴願人の訴願の理由に審査の範囲を限局されるものでなく職権を以つてそれ以外の点についても実質的に事実の審査や証拠の蒐集を為し得べきものと解すべきであるから異議申立人や訴願人の申立理由以外の事実を捉えこれによつて当選の効力の有無を判断することは毫も妨げないところであり、被告が右裁決に当り投票の一部のみを審査しただけで全般に亘り審査をしなかつたとの点はこれを認めるに足る証左がないのでこの事実を前提とする原告の主張は他の点につき判断を用うるまでもなく失当として排斥を免れない。然らば原告の有効投票とされたものの中から右無効投票一票を控除すればその有効投票数は数は得票の差一票に過ぎなかつた首位落選者のそれと同数となる計算となり原告を無条件に当選者とした前記北浦町選挙会の決定には誤があることとなり且つその誤は当選の効力に影響を及ぼすこと明かであるから原告の当選の効力は否定されねばならぬものであり従つてこれと同趣旨の被告の裁決は相当である。よつて右と異る所見に基き被告の裁決を不当とする原告の請求を棄却すべきものとし訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 豊川博雅 西田賢次郎 浜辺信義)